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NK SOUND TOKYO訪問
NK SOUND TOKYOは、昨年10月にオープンした、エンジニアのNeeraj Khajanchiのプライベートスタジオ。プライベートとしたのは、一般的な商業スタジオとして外貸しをしていないのでプライベートとしただけであって、スタジオの規模とクオリティーは一般的な商業スタジオに劣る点はまったくない。プロフェッショナルのエンジニアが自分の仕事をするために作った商業スタジオと同レベル、またはそれ以上のスタジオ、というのが正解だろう。
マイケル・ジャクソン、ボーイズIIメン、ティンバランド、リルジョン、 ジャヒーム、ヨランダ・アダムス、ランディー・ジャクソン、ボビー・バレンティノなどの海外一流アーティストを始め、Sing Like Talking、三浦大知、さかいゆう、SKY-HI(AAA)、中川翔子、安室奈美恵、Crystal Kay、福原美穂、MAX、AIなどの国内アーティストまでを幅広く手掛ける今最も多忙なレコーディング&ミキシングエンジニアの一人。
単に奇をてらったものではなく、狙いがあっての設計
Pro Tools HDXシステムにお気に入りのアウトボードが多数組み込まれたコントロールルームは、自身の使いやすさ、もっといえば自分の好みを追求したスタジオといった趣で、いわゆる商業スタジオとはまったく違うアプローチといっていい。
高いところにあるアウトボードは主にドラム用で、パラメーターもほぼ決まっているのだが、一方微調整が必要なVocal用のアウトボード群はすぐに手が届くところにまとめられている。
ブースに目を向けてみよう。床の密度、床板の素材、天井の高さ、壁の木まですべて自身で選び、施工されたこのスタジオは、実によく考え抜かれた空間がつくられている。
たとえばドラムが録音できるブースは天井が円錐上になっており、独特の音反射によるアンビが得られる。単に奇をてらったものではなく、狙いがあっての設計なのである。
一方グランドピアノが鎮座するメインブース、このブースと地続きでベース、Vocalブースがある。
セパレーションも可能なのだが、ピアノのあるブースとベースのブースは床素材を変えており、多少かぶりありでのエネルギッシュな録音をしても、それぞれの楽器を最適に鳴らして録音することができるという、話をきいているだけでも感心するしかないという工夫ぶり。地続きなのだが独立性も兼ね備えている、そんなブースである。
B&W801用のケーブルとして、最初は同じ時期にリリースされたEXPLORER V2を試したところ、左右のレンジの振りがはっきりしているので、もっとニアフィールドだと良さそうだったのだが、このシステムだとややHiFiすぎる傾向だった。
結局EXPLORER V2 2.0は1階の小さいスタジオで使われている。そして次に単線のFF-20や元のBeldenと比較。なかなかしっくりこない中、B&W801がメインモニターという一見日本のスタジオでは珍しいセレクトであり、これを仕事としてモニタリングをきっちりさせるには、ケーブルサイズも大きいほうがいいのでは、ということで、TUNAMI NIGO V2を提案。すると、
Neeraj:変に派手じゃないし、 MIDが結構広がる耳に優しい音で、かなり僕の好み!!でも S/Nがすごくよくて、beldenみたいに地味には聞こえない。
という好印象のリアクションがあり、現在のTUNAMI NIGO V2に落ち着いた。
メイン回線でもあるこのマイクにレンジの広さと深みに定評のあるQAC-222を選ぶというのは、とても理にかなっている。
例えばこの日ちょうど録音していたセッションでは、ピアノの録音にEarthworks/PM40にQAC-222、Cathedral Pipesのカスタム47にはPA-02 V2を組み合わせていた。
さらに訪問する直前に、QAC-222をギター用にチューニングしたケーブルのQAC-222Gでマイクケーブルをつくり、同じ設計でどれだけキャラクター変わるかを試してもらっていたのだが、このQAC-222GにはAKG 414と組み合わせて、計6ラインでレコーディングをしていたとのこと。
余談ではあるがこのQAC-222Gは、QAC-222よりも中高域にキラっとした成分が存在し、ギターを鳴らした際にブーミーに感じる中低域のピークを抑えたケーブルになっている。
QAC-222の幅広いレンジを深く受け止めるといういうよりも、QAC-222Gはギターという楽器の特性に合う帯域に音成分を集めているのである意味レンジ間は狭まっていると想像できていた。
ただその狭さも使いようというか、はまりどころがあれば面白いのでは、ということで今回スピンオフ的にNeerajさんに試してもらったわけである。
本来これで十分といえば十分なのだが、今回のスピンオフケーブルであるQAC-222GとAKGの414の組み合わせを47の後ろに。
ギターでの印象そのままの存在感のある中高域が、414の特性をさらに伸ばすように収音されていた。
この3つをブレンドしたものがピアノのレコーディングとして耳に届くということである。
まとめると、今回は基本がEarthworks/PM40とQAC-222、肉付けにCathedral Pipes/カスタム47とPA-02 V2、耳につきやすくするプラスアルファのエッセンスとしてAKG414とQAC-222Gという具合。
このセッション以外にもいろんな組み合わせを試しているそうで、ピアノで旋律の動きを際立たせる時に効果的なXY録音では、左手範囲にセンターchで1本、よく動く右手範囲にXYの2本というアプローチ。マイクは右手と左手で必ず違うものを使い、ケーブルも左手にPA-02 V2、右手XYにQAC-222という組み合わせにしたりするそうだ。この時XYをXをセンターYをやや右にふるときれいに聴かせられるという。
今回の訪問で知ることのできた一連のピアノのレコーディングアプローチ、これはエンジニアが良い作品をつくるアイデアの一例に過ぎない。
マイクを選び、そのマイクにあったマイクケーブルを選び、マイクを立てる場所を選び、録音方法に工夫をする、これらのエンジニアのアイデアや独創性もまた作品の一部であるという理解を深められた、とても有意義な時間であった。
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